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2025.03.31

働きやすい職場環境の整備

多様な働き方ができる体制構築で、新卒採用が0人から4人に増加

有限会社山陽不動産

働き方改革 不動産業 10人以上30人未満
住所
広島県福山市東町3丁目10番5号
従業員(構成員)数
10人(内、女性 5人・外国人 0人)※2025年1月時点
事業内容
不動産買取、新築戸建分譲、新築分譲マンション販売代理、リフォーム、賃貸仲介・管理、若手起業家支援ビル「DioPorte」の運営・管理、資産活用(コンサルティング)事業等

ここがグリーンなポイント!

  • 業務進捗の可視化で、スタッフの急な休みやシフト変更に対応できる体制を構築
  • 新卒採用が増加し、若い世代に選ばれる企業風土を形成
  • 資格取得の受験料を全額補助することで能動的にスキルアップをめざす意識を醸成



有限会社山陽不動産は、親子三代にわたり女性たちが経営を継承し、現在は角田 千鶴(つのだ ちづる)さんが副社長を務める歴史ある不動産会社です。

1969年、広島県福山市で創業した同社。仕事との両立という観点で、育児・介護はもちろん、かつて同社に在籍していたプロスポーツ選手をめざす人など、多様な目標や事情を持つ人にも柔軟に対応できる職場環境を整備しています。

その結果、新卒採用の増加や、スタッフの資格取得意欲向上などの成果が顕在化しています。

山陽不動産 副社長 角田 千鶴さん

働きやすい環境づくりのきっかけは、スタッフ増加によるコミュニケーショントラブル

職場の環境改善を図るようになったのは、9年ほど前にスタッフが増え始めた時期でした。

あるスタッフが、子どもの看病や介護などで突然1週間ほど不在になるケースが発生。口頭やメモベースでの業務引継ぎだけでは、タスクの進捗状況の把握が難しく、出社していたスタッフに業務負担が集中していたのです。

この問題を解決するために「誰が何をどこまで進めているか」を共有できる仕組みを模索。

最初は市販のタスク管理ツールも検討しましたが、自社のニーズを満たすためにはフルスクラッチ(自社オリジナル)で開発する必要があると分かり、システム会社と協力して独自のシステム構築に乗り出しました。

物件管理画面の一例

タスク管理システムが可能にした育児やスポーツと仕事の両立

独自のタスク管理システムの導入によって実現した大きなメリットの一つが「急な退社やシフト変更時にも業務が止まらない」体制です。

例えばプロサッカー選手をめざすスタッフは、午前中に練習を行い、13時から19時まで勤務する独自のシフトで働いていました。

試合の日程が急に変わっても、システムで進捗を管理しているため、必要な業務を他のスタッフがすぐに把握できる仕組みが整っています。

育児や介護だけでなく、競技など業務外の目標との両立にも対応できることが評価され、スタッフは「休みやすさ」と「責任ある仕事の両立」を実感しながら働けるようになりました。

現場スタッフが使いやすいようオリジナル開発したCRM連動型タスク管理システム

フルスクラッチ開発と社内文化の改革による課題の克服

一見、メリットだらけに見える独自システムの導入は、運用を進めていく内に課題も見えてきました。

スタッフの勤務時間が多様化し、スタッフ間のコミュニケーション機会が減少。これにより、お客様への対応の一貫性が失われるなどの課題が生まれてしまったのです。そこで、次のような工夫で課題を克服しました。

<タスク管理システムを継続的に開発しながらアップデート>
自社に最適化して運用するタスク管理システムは、毎年1回のペースで機能を見直し。現場の声を反映してアップデートを重ねています。
また、システムの開発・改善にはコストがかかるものの、使い勝手を高めることでスタッフの定着率が高まり、結果として業務効率の向上につながりました。

<情報共有方法の確立>
案件ごとの進捗やお客様対応の履歴を細かく記録し、CRM(顧客関係管理)システムと連動。これによりスタッフの家庭事情などによる急な休暇や、シフト変更があってもスタッフ同士の追加連絡を最小限に抑え、お客様に一貫したサービスを提供できる体制を実現しました。

<フェアな組織文化の推進>
スタッフ同士の呼称は、相手が副社長でも「さん」付けとし、上下関係を過度に意識させない企業文化を醸成。
また、スタッフの生活環境を考慮し、忘年会を勤務の終了時間後ではなく勤務時間内に行うなど、子育て中の社員などスタッフ全員が参加しやすい環境をつくっています。

新入社員ならではの視点を業務に取り入れ、べテランと若手が互いに尊重し合える関係に

新卒採用と資格取得に見えたスタッフのモチベーション向上も大きな成果

働き方改革の効果は新卒採用の実績にはっきりと表れています。

2022年度以前には0人だった新卒の採用が、2023年度に1人、2024年度にも1人、2025年度には2人の採用が決定するなど、若い世代から注目される企業へ変化を遂げました。

また、スタッフの資格取得支援として受験料を全額補助したところ、現在では全スタッフが積極的に資格取得をめざすようになっています。

スタッフ自身が取得希望したドローンの資格を見事に取得

自社でチラシやWebデザイン・動画制作を行うためにクリエイター職を採用するなど「情報を迅速かつ魅力的に発信する」方針で、スタッフのスキルアップと会社のサービス向上を同時に達成する好循環が生まれました。

情報は生物だからこそ、クリエイティブの内製化でデザイン力とスピード感を上げた情報を発信します

ベンチャー支援ビルによる地域への波及効果

「若い人の活躍は地域の活性化につながる」と考え、ベンチャーを支援するビル「DioPorte(ディオポルテ)」を自社で立ち上げました。

防犯対策としてオートロックを導入することで人件費を抑え、その分を家賃の割引や新たな投資に回せる仕組みを構築。

結果的にビルの稼働率が高まり、安定した収益確保と若い起業家へのリスクの低い賃貸環境を同時に実現しています。

この安定収益をもとにクリエイターを積極的に採用し、自社コンテンツを内製化している点も大きな特徴です。

若手を応援する姿勢を明確に打ち出すことで、地域社会への貢献と組織の成長が相乗効果を生んでいます。

福山市新涯町にある若手起業家支援ビルの第3弾「DioPorte3」

若い世代のアイデアを迅速に形にする社内体制

「スタッフ一人ひとりが主体的に行動する」ことを重視する同社では、1ヶ月に3〜4件のペースで新しいアイデアを具体化し、実行に移しています。

例えば、待合室にモニターを設置して情報発信を強化したり、雨対策としてのオリジナル傘を製作したり、お客様用のカイロを用意したりと、小さな工夫を積み重ねる文化が醸成されています。

雨の日にはオリジナル傘でお客様を駐車場までお見送りします

こうした新しい取組に向けた会議が毎週行われ、若手スタッフでも忌憚なくアイデアを出せる点が特徴です。

経営層も「実現にかかる予算」と「社内外への効果」をバランスよく検討し、可能な限り早い段階で実行に結びつけています。

自身の提案が通り実現することで、スタッフの業務意欲向上という副次的効果も

福山の魅力向上と自社の持続的成長の両立をめざして

9年前の試行錯誤を経て独自のタスク管理システムを導入し、子育て・介護・競技など多様なライフスタイルを尊重しながら企業を発展させています。

スタッフの資格取得意欲が高まり、新卒採用が増加した現状は、柔軟な働き方がもたらした恩恵の一例といえます。

今後は若い起業家の支援ビルの運営や、地元サッカークラブの福山シティFCのスポンサー協力など、地域の魅力向上と自社の持続的成長を両立させることをめざして、「福山市を次世代から選ばれる街にする」というビジョンに向かって歩みを進めています。

※本記事内容は2025年1月取材時の情報です。