Case study

企業取組紹介

HOME 実践の場 企業取組紹介 食育によって“食の感性”を育てるとともに未来の地元産業の担い手に

2025.03.31

環境に配慮した取組

食育によって“食の感性”を育てるとともに未来の地元産業の担い手に

マルコ水産有限会社

CO2削減 農業・林業・狩猟業・漁業 10人以上30人未満
住所
広島県福山市内海町イ1428-128
従業員(構成員)数
17人(内、女性 10人・外国人 0人)※2025年2月時点
事業内容
海苔・牡蠣の養殖から製造・販売

ここがグリーンなポイント!

  • 地元の小中学生を対象に漁業や食に関する社会見学・職場体験を実施
  • 社会見学・職場体験の中で、事業への理解や環境問題への興味を喚起
  • 食育活動を通じて、地域の伝統や文化、漁業に関する知識を次世代に継承

マルコ水産有限会社では地元の小中学生を対象に、漁業や食に関する社会見学・職場体験を実施し、食育活動を推進しています。活動を通じて地元産業や環境問題への関心を深める機会になっています。さらに生徒が、新商品の提案や学園祭での販売などの主体的な活動を展開。食育を通じて小中学生の食への感性を育て、将来の地元産業を支える人材育成をめざしています。

牡蠣の殻むき作業の様子

食への感性を育むため地元小中学生に向けた食育活動を推進

同社は1964年に創業した、福山市内海町の田島にある企業です。海苔や牡蠣の養殖・加工・販売をしており、味付け海苔・焼海苔の加工ラインを導入するなど、6次産業化にも取り組んでいます。

2020年ごろから、地元の市立想青学園(小中一貫校)の小中学生の社会科見学・職場体験を受け入れ、食育活動に力を入れています。取り組むことになった経緯について、営業部長の兼田 寿敏(かねだ ひさとし)さんは次のように話します。

「私たちのような小規模企業は、自社の商品が良いなと思っていただいたお客様と、長くお付き合いをしていくことが大切です。では『どのようにしてお客様に、自社商品の良さを知ってもらえばいいのか?』という点をずっと考えていました。こちらから商品が良い理由や商品ができるまでの苦労などを説明しても、お客様が“情報を受け取るアンテナ”を立てていないと伝わらないんです。」

営業部 部長 兼田 寿敏さん

兼田さんは“情報を受け取るアンテナ”とは、商品ができあがるまでの裏側について関心を持つ感性だといいます。多くの人は今まで商品の裏側に関する情報を受け取ったことが少ないので、その感性が育っていないのだそう。そのため、いかにして商品の良さを知ってもらう感性を身につけてもらうかを考えたと話します。

「もしお客様が『海苔の生産ってこんなに大変なんだ』と知ったら、きっと『もっと海苔を大事に食べようかな』という気持ちになり、商品の良さが伝わるはず。そこで、私は生産者として生産物に関わる情報を積極的に届けていこうと考えました。そして地域の方々、特に子どもたちの人生が豊かになることにつなげていけば、食に関する感性が育って“アンテナ”が立つと思ったのです。そして地元の小中学生を対象に社会見学や職場体験の取組を始めました。」

兼田さんは、豊かな心を育み豊かな人生を送るためには「豊かな食」が必要不可欠であると考えています。豊かな食とは、高い食材や高級な料理ではありません。「食べ物が自分の胃袋に入るまでに、どんな人が、どのようにして、どんな想いを込めてつくっているのか」といった、生産者・料理人などの食に携わる人の苦労や喜びを想像することが、豊かな食につながるといいます。

「食に関する情報を受け取る“アンテナ感度”を磨くのが『食育』だと考えています。特に子どもにとって食育は、その後の人生を本当に豊かにしてくれるのではないでしょうか。その上で、地域文化として長く続いている漁業や、環境の変化で昔のように豊かな自然ではなくなっていることなどを深く知る。長い目で見ると、食文化の継承や環境問題への興味につながるのではないかと思います。」

小中学生の自社への愛着・信頼を感じ、地元産業を支える人材になることを期待

兼田さんは、社会見学・職場体験の受け入れにより「食育活動を通じて、小中学生がマルコ水産や地元に対しての愛着が深くなった」と成果を感じています。

「取組を通じて、小中学生がマルコ水産という存在に対して愛着を持ち、信頼を寄せ、考えに共感を抱いているのをひしひしと感じました。きっと心の中に、取組とともに当社のことも印象に残っているでしょう。このことは、当社が地域の中で長く愛されることにつながると思います。」

「小中学生たちが漁業のあり方や環境問題をより深く考えるきっかけとなり、食に関して関心を深めてくれれば、こんなにうれしいことはありません。小中学生たちはやがて成人します。そのときに当社だけでなく地元の食、さらには地元産業の担い手になったり、商品を知人にすすめたりすることで、地元経済を支えてくれれば私は幸せですね。食育を経験した子の中で、数人でも『将来は漁師になりたい』『マルコ水産で働きたい』と思ってもらえたらとてもうれしいです。」

また、兼田さんは小中学生が食育活動で学んだことや体験したことを、家庭で保護者と語り合うことで、大人の食の感性が育つことにも期待を寄せています。

販売所に陳列されている同社の海苔商品

座学や職場体験を通じて漁業や環境の現状を学習

同社では、おもに市立想青学園の小中学生を対象に食育活動を展開しています。

毎年1月に同学園の3年生が来社し、海苔養殖について学習します。「学習の内容は座学と見学。座学では、私が養殖過程の説明と栄養塩不足・食害などの環境問題対策について講義します。見学は海苔の工場見学で、実際に加工・製造の様子を見ます。

2022年ごろからは毎年8月に8年生(中学2年生)が3日間にわたって職場体験を実施。「牡蠣の養殖や海苔網のメンテナンス、味付け海苔の加工工程(袋詰めなど)をそれぞれ1日ずつ体験してもらっています。」

2024年度には、ふるさと学習「SOSEI学」の一環として、7年生(中学1年生)の中の漁業を学ぶチームが来社。一年を通して、漁業や同社の事業を学びました。「私が漁業の置かれている現状、抱えている問題を授業で解説しました。それを受けて、当社のやりたいことや困っていることに対して、生徒たちが手伝えることを考え、企画を立案。プレゼンテーションを実施しました。その後、立案内容をブラッシュアップしていき、できあがったものを学園祭で発表しています。」

なお、同社では市立福山高校1年生に対しても同様の取組を行っています。

受け入れ人数や海況の課題を、チーム分けや見学内容の調整で解決

社会見学・職場体験を積極的に受け入れるマルコ水産ですが、課題もありました。「弊社のキャパシティの問題で、一度の受け入れ人数に限界があることが課題でした。また、工場見学は、味付け海苔などに加工する前の海苔(乾海苔)の製造現場を見ます。海の状態や海苔の生育具合によっては、予定していたものが見せられない場合が発生する点も懸念点でした。」

そこで、解決策として複数のチームに分かれる方法を提案。そして、チームごとに「座学」「工場見学」「まとめ」をローテーションして実施しました。これによりスムーズに見学・体験が行えたといいます。場合によっては、先生と相談して半数ずつ時間をずらして来社する方法も行ったそうです。

海の状況により工場見学ができなかったときは、海苔の製造現場ではなく、味付け海苔の加工現場を見学してもらうことで解決しました。味付け海苔は乾海苔を加工してつくるので、海の状況に左右されず、社会見学に合わせてスケジューリングできるからです。

海苔の製造ラインの様子

生徒の積極的な提案や販売など、食育を通じた成長を実感

兼田さんは取組を通じて、小中学生が楽しみながら積極的に活動していくようになり、成長を感じているといいます。

「2024年度は、中学生から当社の佃煮海苔の新商品を提案したいという声が上がりました。これは従来になかった展開で、驚きと同時にうれしさも感じましたね。どんな味にするか生徒が熱い議論を交わし、最終的に梅風味に決定しました。また、ラベルデザインも考案するなど、真剣に取り組んでいたのが印象に残っています。ほかにもマルコ水産をテーマにしたカードゲームも考案してくれました。」

中学生の提案を受けてつくった梅風味の佃煮海苔は、ほかのマルコ水産の商品とともに学園祭で生徒自身が販売。学園祭での販売も、生徒からの提案だったそうです。そして約3時間で、15万円ほど売り上げました。

同社の海苔商品(左から焼き海苔、味付け海苔、佃煮海苔2商品)

「生徒たちが積極的に提案して、試行錯誤しながら挑戦し、成果を出しました。食育を通じて生まれた一連の流れを見て、生徒たちの成長を感じます。これは社会に出て役に立つ経験ではないでしょうか。私たちの食育活動は、当初の想定を超えた成果があると思いました。」

地元の産業や伝統に触れる機会を増やし次世代への継承につなげる

兼田さんは、食育活動を通じてマルコ水産という存在に触れた子たちは、大人になって家で海苔を食べようとなったとき、マルコ水産のことを頭に思い浮かべてほしいと願っています。

「そのために大切なのは、食育の体験・取組を覚えているかということ。学校だけの取組で終わらず、例えば近くにある道の駅に行けば、自分たちが取組で触れた商品が置いてあるなど、目に触れる機会や手にする機会を増やす必要があると考えています。」
「これは海苔だけでなく、ほかの食品、さらには地元の産業全般にいえることではないでしょうか。この地域にどんな商品や産業があるのかを、単に知識として頭に入れるのではなく触れる機会を増やすことで、小中学生が知ることが大事です。これが“アンテナ”という感性が育つことにつながると考えています。」
また兼田さんは、内海町の伝統・文化が次世代へ引き継がれなくなることを危惧しています。内海町内にあった小学校2校・中学校1校が町外の学校と統合されて想青学園となり、町内に小中学校がなくなったからです。

「今後は食育活動だけでなく、学校教育の一環で内海町の伝統・文化や産業を児童に継承していければいいなと思っています。かつて内海町にあった内浦小学校では、学校教育でそれが行われていました。私は地域文化を学び、伝えていくことは、社会的な役割として学校が担うのが適切ではないかと考えています。学区が統合されたので、その役割を想青学園に引き継いでもらえたらうれしいですね。協力や支援は今後もできる限りしていきたいと考えています。」

※本記事内容は2025年2月取材時の情報です。