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2024.03.27

剪定されたバラの枝を使った「ばらデニム」で福山らしさ あふれる商品を製造する篠原テキスタイル

明治40年にかすり製造として創業した篠原テキスタイル

工場内の様子(提供:篠原テキスタイル)

江戸時代より繊維産業が盛んな福山市。そんな福山市北部・駅家町にある繊維メーカーが、篠原テ
キスタイル株式会社(以下「篠原テキスタイル」)です。現在は、おもにデニム生地を主力に製造をし
ています。篠原テキスタイルは117年の長い歴史をもつ、老舗の繊維企業です。

篠原テキスタイルは1907年(明治40年)に、福山市の伝統繊維産業である備後絣(びんごがすり)の
織物製造業の個人事業として創業しました。その後、洋服が浸透するなど生活環境の変化に合わせ
てさまざまな繊維製品を製造するように。1970年代よりデニム生地の製造を開始しました。1978年
(昭和53年)より現社名に。2024年現在、篠原テキスタイルで働いている社員は21名です。

そんな篠原テキスタイルではSDGsの取り組みのひとつとして、伐採されたバラの枝を使ったデニム
生地「ばらデニム」の製造に挑戦しています。

バラは、福山市の市花です。福山市街地は、戦時中に空襲で大きな被害を受けました。戦後の復興
の中、「戦災で荒廃した街に潤いを与え、人々の心に安らぎを取り戻そう」と、1956年(昭和31年)か
ら1957年(昭和32年)にかけて、現在のばら公園にばらの苗木約1,000本を植えたのがきっかけで
す。市制施行100周年となる2016年には「100万本のばらのまち福山」を実現。現在、福山市内のさ
まざまなところに多数のバラが植えられているのです。篠原テキスタイルが、福山のシンボルといえ
るバラを使ったデニムの製造に取りかかったのには、どんな経緯があったのでしょうか。

伐採されたバラの枝を使ったデニム生地

篠原テキスタイル株式会社 篠原由起代表取締役(提供:篠原テキスタイル)

篠原テキスタイルの代表取締役・篠原由起(しのはらゆうき)さんは「もともと私どもは、以前よりサト
ウキビの搾りカスを使ったデニム生地の製造をしていました。沖縄にある株式会社Rinnovation(リノ
ベーション)と協力して、取り組んだプロジェクトです。沖縄の砂糖製造の工程で出るサトウキビの搾
りカスは、世界で一番多く出る農業廃棄物といわれていました。そこでサトウキビの搾りカスを利用し
た製品をつくりたいと、相談されたのが始まりです」と語ります。

その後、農業廃棄物を使ったデニム生地はさまざまなものに展開していきます。お茶や、ビール製造
工程で出るホップの搾りカスなどを使ったデニムが生まれました。

ばらデニムの製造について説明する篠原代表(提供:福山市)

ある日、篠原代表は福山市役所の職員との会話しているとき、バラについての話になったそうです。
そのときに「福山市花はバラで市内にたくさんのバラがあるけど、剪定した枝はどうしているか」と聞
いてみると、「すべて焼却処分している」との答えが返ってきました。

篠原代表「このときにサトウキビのデニムと同じような方法で、剪定したバラの枝が使えるのではな
いかと思いつき、ばらデニムの構想が生まれました。福山市花のバラと福山市の産業であるデニム
製造という2つの福山の顔がコラボした、福山らしさあふれるおもしろい製品です」

デニムの製造風景(提供:篠原テキスタイル) ※ばらデニムの製造ではありません

「加えて、SDGsに対する市民の意識の醸成に繋がるではないかと思いました。福山では、2025年に
世界バラ会議の開催が控えています。そこで、市役所の世界バラ会議推進室と企画政策課・産業振
興課に提案をしてみたところ、『ぜひ、やりましょう!』とのお答えをいただき、ばらデニムの企画が始
動したのです」

篠原テキスタイルで働く職人たちは、過去にサトウキビをはじめさまざまな農業廃棄物のデニムをつ
くった経験がありました。そのためバラの枝を使うと聞いたとき、職人たちは驚きよりも好奇心の方が
上回ったそうです。

一般のデニムと違った風合いの変化を楽しめるばらデニム

通常のデニム(左)とサトウキビデニム(右)の洗った状態の比較

ばらデニムは、サトウキビのデニムの製造工程とほぼ同じ方法で製造されます。通常のデニムでは
経糸(たていと)・緯糸(よこいと)とも、綿糸が使われます。ばらデニムでは経糸には綿糸、緯糸には
バラの紙糸を使用。バラの紙糸は、バラの枝を粉末にして和紙をつくり、それを紙縒(こより)のように
ねじって糸にしたもの(撚糸)です。

「和紙にする工程は沖縄のRinnovationさん、撚糸は福山の備後撚糸さん、経糸の染色は同じく福山
の坂本デニムさんにお願いしています。そして生地にする工程を、篠原テキスタイルが行います」と
篠原代表。

1度洗ったばらデニム(左)と、洗う前のばらデニム(右)の比較

篠原代表はばらデニムの特徴について「ばらデニムと通常のデニムの一番大きな違いは、色落ちの
具合です。デニムははき続け、洗っていったときの色落ちや色合いの変化が魅力ですよね。ばらデ
ニムの場合、通常のデニムより全体が白っぽくなる特徴があります。専門的な言葉でいうと『アタリが
出やすい』状態です。これは綿糸に比べて、和紙は硬いから。ですからばらデニムの触り心地は、通
常デニムよりややサラッとした感触です。強度はばらデニムも通常のデニムも変わりませんので、通
常のデニムと同じように使用できます」と話します。

篠原代表「今回のばらデニムでは、ばら公園を中心とした市内のバラの枝に加え、市民や団体から
提供されたバラの枝を使用しました。全部で1.2トンくらいは集まりましたが、すべて使用したわけで
はありません。テストでしたので、使ったのは数十kgです」

ばら公園で剪定されたバラの枝(提供:福山市)

最初のばらデニム製造となった今回ですが、全部で約50mの生地が製造できました。2024年2月の
取材時点では、ばらデニムでパンツを製作する構想だとのことです。「できれば完成したばらデニム
のパンツを、バラに関わる方、または福山を代表するものに関わる方にはいていただき、ばらデニム
の発信をできたらいいなと考えています」と篠原代表。

篠原テキスタイルのばらデニムはすでに注目されており、全国放送を含めたさまざまなメディアの取
材を受けています。メディアでの紹介を見て、全国各地の繊維関連企業等から問い合わせも来てい
るそうです。

SDGsの取り組みを通じて新たなチャンスが生まれる

余った糸で製造された靴下(提供:篠原テキスタイル)

篠原テキスタイルではばらデニムの製造より前、2018年ごろよりSDGsへの取り組みを始めていま
す。たとえば本来は廃棄する余った糸を使って、靴下や手袋などの雑貨・小物を製造。同じく正規の
流通に乗らないような傷が入った生地を使い、バッグなどを製造しています。市民からいらなくなった
生地を回収し、反毛という技術で綿の状態に戻して、ふたたび繊維製品に生まれ変わらせるという
取り組みもしているそうです。

篠原代表はSDGsに取り組むメリットについて、次のように語ります。「SDGsの取り組みを通じて、そ
れまで注目していなかったものに注目し、新たなものを生みだす可能性があるのがSDGsに取り組
むメリットではないでしょうか。それまで価値がない、チャンスがないと思って見向きもしなかったもの
の中から、価値やチャンスが生まれるかもしません」

「弊社でも余った糸や傷ついた生地は捨てていましたが、捨てるのにもお金を払っていました。しかし
余った糸や傷ついた生地を捨てず、新たな製品として活用することでプラスになっています。お金が
出ていったものが、お金が入ってくるものになったのです。まさに、ゴミの中に宝があった感じです
ね。アイデアしだいで、可能性は無限大だと思います!」

来年以降もばらデニムを続けていくことが大事

今後の展望について「来年以降も、ばらデニムを続けていくことが大事だと思います。そして製品の
バリエーションを増やせたらいいですね。また、ほかの業界の方々とコラボレーションしてもおもしろ
いんじゃないでしょうか」と篠原代表。

「ばらデニムをきっかけとして、福山市の存在や、福山市の産業について知ってもらえたらいいと思っ
ています。また小さなお子さんの中には、バラを育てるには剪定が必要で、剪定された枝が大量に
出ることを知らない方も多いです。ばらデニムを通じて、バラについてより深く知ってもらえたらうれし
いですね。そして廃材の活用について考えてもらえると、よりうれしいと感じます」と篠原代表は話し
ました。

篠原テキスタイルがSDGsの取り組みとして製造するばらデニム。福山市では、世界バラ会議の開
催を控えています。福山らしさにあふれたばらデニムに、ぜひ注目してみてください。

篠原テキスタイル株式会社

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